夕立
大平へと上りながら空を見上げると、入道雲をひかえて低い灰色の雲がいくつか浮いていた。
しかし、松川入り方向に嫌な雲は見えない。夜には雨予報だが、崩れるにはまだ数時間はあるだろうと高を括る。
お休み処への届け物があって立ち寄る。しかし不在のため届け物だけ置いて、大平峠まで行ってから折り返すことにした。
猿倉の泉への分岐点から飯田峠までのラップは、火曜日ほど悪くないものの奮わず。
今シーズンはベストラップ更新どころか、一度も40分を切っていない。
前日とは一変、大平はとても涼しかった。太陽がないと、こうも違うのか。
道路が濡れた場所で、ミヤマカラスアゲハが幾匹も給水している。
通り過ぎるに合わせて舞い上がり、瑠璃と翠緑の光を放った。
ピークのスノーシェルター手前で引き返す。
空は雲で覆われてきていたが、低くたれ込むほどではなかった。
ところが、博打小屋を越えてすぐ、路面に点々と染みが生まれた。雨?
と、雹と見まごうような大きな雨粒が音を立てて周囲に落ち始めたかと思うと、あっという間に滝の中にいるかのような有り様に。
幸い、お休み処はまだ開いていた。慌てて軒先へ入り雨宿りさせて貰う。
それにしてもやっぱり山中なんだな。天気はこんなに急変するものなのか。
店内では、二人の常連さんがくつろいでいた。水浴びして店に来た途端の雨だったそうで、濡れずに済んだとのこと。
こちらも大して濡れる前に店に着いて幸いだった。
豪雨は数分で収まったものの、雨脚は止まらない。雷鳴も響いている。
お休み処大平は木曜定休。店主の桜井さんが帰宅ついでに車で送ってくださることになって、ありがたくお言葉に甘えた。
先日、東京新聞だったろうか、楽天が全社員に英語を必須条件として課すことを発表したのに対し、本田技研の社長が必須条件とするはナンセンスと一蹴したことに対して、事業スピードの違いで解説をしていた。
インターネットで事業を展開するような企業は事業スピードが早く、英語で流れる最新情報を通訳や翻訳を介して得ていては遅れをとってしまう。という様な内容だった。
確かに一理あるが、伊東社長としては、本田技研が業界の最新情報を発信する世界のトップにある企業の一つであることを含ませて、英語は必要に応じて使えば良いと言っただろうと思う。
サービス業に比べると製造業の事業スピードは売上げ推移などを見ても緩く感じるだろうが、マーケティングやエンジニアリング情報のスピードはエンドユーザーを顧客の主体とする企業の場合、業態に関係ないだろう。
なんて事を考えながら走っていたから、天気の急変を見誤ったのだろうかとも思ったが、雨雲の発達の仕方がいつもと違っていたようだ。
桜井さんの軽トラの助手席に揺られて飯田峠を越えると、雲の中へ入った。
伊那谷に雨雲が垂れ込んでいた。南西から低い雨雲が入ってきたらしい。雨脚に回り込まれた恰好だ。
いつもなら雨雲に追われるのに、雨に出迎えられたのはこのためだった。
それにしても、飯田峠を越えて下りへ入る前に大平で雨に捕まったのは不幸中の幸い。
雷雨の中、ロードで20km近いダウンヒルをこなすには、ちょっとした覚悟がいるものだ。
桜井さんに送っていただいて、とてもありがたかった。
みーちゃん氏と子供たちも商店街で夕立に出遭って、洋品店の方が傘を二本貸してくださったので大して濡れずに帰宅できたのだそうだ。
人情はとてもありがたいものだ。子供たちも、人の恩に感謝して、別の誰かに返せるようにもなっていけるだろう。
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