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2009.12.29

スピードドライブのメンテナンス

キャリーミーの2段変速器、Speed-driveの調子が悪い。

等速時、クラッチ滑りが再発。まだ頻出していないが、今後悪化しそうな雰囲気がある。
また、チャラチャラとした異音も聞かれる。

チェーンは必要充分に引かれ、以前に代理店から指摘されたテンション不足はないと思われる。


スピードドライブはスイスのSchlump(シュルンプ)社の自転車用内装変速器で、クランクのスパイダー部に遊星ギヤを内蔵して増速させる機構のフロント変速器だ。

シマノテーパーの四角嵌合クランクは一般的な一輪車と同じだそうだ。
それもそのはず、スピードドライブは一輪車用に開発した変速装置を元にしていると聞いている。

スパイダーとボトムブラケットが一体構造になっている。BB軸上の左右の変速ボタンを蹴り押すことで、増速と直結等速の変速ができる。

変速ボタンが押されることでドッグクラッチの噛み合わせが変わって変速する。調整不良や故障でクラッチの噛み合いが悪いと、空転してしまう。


キャリーミーDSのスピードドライブは、台湾のATS社がシュルンプからのライセンスで生産している。
歩留まりは知らないが、自分が使っているものに不満はない。

幾度かの不具合はあったもののインストールの不良や調整不良によるもので、製品の品質に起因する問題は今のところ無い。

しかしながら、、シュルンプ社がホームページで公開しているスピードドライブのマニュアルには、ユーザーメンテナンスについての言及がある。
スピードドライブのギヤシステムは構造上シールされていないため、使用頻度に応じて潤滑油が減る。
そのため、ユーザーが定期的に注油して補給する必要がある。

ところが、キャリーミーの取扱説明書にスピードドライブのメンテナンスに関する項目はなく、パシフィックの代理店やパシフィック自体からも、スピードドライブのユーザーメンテナンスについてのアナウンスは無い。

今回の不具合は、メンテナンス不足に起因している可能性もある。
シュルンプ社の取扱説明書を参考に、一通りのユーザーメンテナンスを行ってみた。

ちなみに、シュルンプ社のスピードドライブは2009年夏にドッグクラッチシステムが改良されて、固定ギヤ(フィックスドギヤ)に対応した。
ATS社のライセンス品は、フィックスドギヤに対応していない。

シュルンプ社製を購入する場合には、フィックスドギヤ対応の新型クラッチモデルであることを確認したいものだ。


1.組み付けの確認

スピードドライブは、BB左ワンのロックリングで固定されている。
右ワンのBBシェルは45度に座刳られ、専用のコーンリングを介して摩擦固定される。
BBシェルがアルミの場合、ステンレス製のコーンリングが使われる。シェルがクロモリなどの鉄の場合は、アルミ製のコーンリングを使用する。
そのため、スピードドライブを発注する際は、BBシェル(多くの場合フレーム)の材質も伝える必要がある。

左ワンのロックリングに弛みはなく、スピードドライブ自体はしっかりと固定されている。
しかし、5つのチェーンリング固定ボルト(チェンリングピン)に弛みがあったので締め直した。

また、遊星ギヤユニットとスパイダー、そして鉄製のフロントプレートを固定している5本の8mm六角ボルトにも弛みがあった。
8mmのボックスラチェットレンチを使用して、フロントプレートが傾かないように星を一筆書きする順番で少しずつ締め直した。
このボルトやチェーンリングピンはクランクアームに隠れる場合があるため、増速側に変速した状態でクランクを回して、工具が当たる位置を確保しながらボルトを締める。

フロントプレートの5本のボルトの締め直しが効いた様で、クラッチ滑りが無くなり、心許なかった踏み心地も改善された。
これなら、聖蹟桜ヶ丘のいろは坂も問題なく登れるだろう。

ボルトが弛んでいたため、遊星ギヤユニットのスラスト寸法が大きくなって、クラッチ滑りの原因となったのかも知れない。

しかし、異音は残っている。


2.スパイダーのラジアルガタ調整

スピードドライブのマニュアルには、メンテナンス項目が二つ上げられている。 ひとつはギヤへの注油。そしてもうひとつが、ギヤリングの遊び調整となっている。

ギヤリングとは遊星ギヤが内蔵されたスパイダーの事。
スピードドライブのBB軸は3つの6903 2RSカートリッジベアリングと、遊星ギヤシステムを支える4mm径の硬球を使った玉軸受けが内蔵される。

シュルンプでは、2万~3万km走行毎に6903 2RSカートリッジベアリングの交換を推奨している。

さて、左ワンの軸にあるナット(右写真の緑矢印)で、φ4mm硬球の玉当たりが調整できる。

工場出荷時、玉当たりは最適な状態に調整されている。しかし、振動による弛みや摩耗でガタが生じると、ギヤリング、つまりスパイダーのラジアルガタとして現れる。

スパイダーをつまんで左右に揺するとガタが確認できたので、手持ちのS型ロックリング用レンチで玉当たりを調整した。写真では弛める方向にレンチを当てているが、スパイダーのラジアルガタを確認しながら時計方向へ少しずつ締めてガタを無くす。
この時、締めすぎるとBB軸上のすべてのベアリングにストレスを与えるらしく、締め過ぎない様に注意する旨がマニュアルにある。

シュルンプのホームページに掲載されているメンテナンス項目によると、3千km程度の走行毎にギヤリングのガタを確認して、必要に応じて玉当たり調整を行うことを推奨している。

スパイダーのラジアルガタ調整を行って、異音は少しだけ低減した。


3.遊星ギヤシステムへの注油

マニュアルによると、「プラスチックカバーが埃や水飛沫からスピードドライブを保護している。しかし、摩擦損失をできるだけ少なくするために、そのカバーは必要最小限の力で圧着させているだけで、潤滑油が漏れ出すのを防げない。」とある。

プラスチックカバーとは、スパイダー裏面のカバープレートを指すものと思われる。

また、マニュアルには「スピードドライブを増速モードで使用した後、等速へ切り換えた(負荷が全く遊星ギヤにない)とき異音があるなら、たぶん遊星ギヤシステムの潤滑油の不足である」とある。

マニュアルにもある様に、異音の原因は潤滑油不足である可能性が高い。


スピードドライブでは、粘度を最適化した二硫化モリブデングリスを潤滑油として採用している。

そして、3200km~4800kmの走行毎、または、年に1、2度は注油するように要求されている。

シュルンプのホームページに掲載されているメンテナンス方法によると、少なくとも3200km~4800kmの走行毎には二硫化モリブデングリスを10cc程度注油するのが良いらしい。

また、自転車用オイルを適宜適量注油することで、簡易的メンテナンスに代えられるそうだ。

二硫化モリブデングリスは、グリースガン用の蛇腹チューブに入ったものがホームセンターなどに百円程度で売られている。

自動車のドライブシャフトブーツに充填するものが一般的で、スピードドライブに用いるには粘度が高すぎるかも知れない。

シュルンプでは、専用の二硫化モリブデン・ルブを3回分量注射器に入れたものを$7程度で用意しているが、入手性が悪い。

百均でプラの注射器買って、ホームセンターにある二硫化モリブデングリスを機械油などで溶いて注油しても充分な気がする。


さて、スパイダーの表面にある5本の8mm六角ボルトの間に、マイナスドライバーで外せるネジがある。
このネジを外すと注油孔が現れる。

実際に注油するには、遊星ギヤを支えるケージにある注油孔と重なる位置まで増速状態のスパイダーを回転させる。(右の写真の2-3枚目参照)

二つの注油孔が重なったら、注射器などでグリスを充填する。

グリスは粘度が高いため、特に低速時に粘性抵抗が大きくなる。そのため、オイルとの併用が推奨されている。


今回は、グリスやオイルとの混合が可能で、しかも樹脂を侵さないレスポのチタンスプレーで代用してみた。

10ccも充填できないため、適当に注油とギヤの作動を繰り返して馴染ませたところ、チャラチャラとした異音はすっかり無くなった。


以上のメンテナンスにより、スピードドライブは今までで一番良い感じに落ち着いた。

チタンスプレーの効果がどれほど保つかはわからないが、暖かくなったら手持ちの二硫化モリブデングリスにチタンスプレーを混ぜて、適量を充填してみたいと思っている。


-追記-

グリスは潤滑油を増ちょう剤に包んで高い粘度をもたせたもの。
使用温度や荷重、定格回転数などに応じて適正な増ちょう剤やオイルが変わる。

オイルは表面張力で摺動部に薄膜を形成できる。流動性が高いため、シールされていないと短期間に流出や揮発してしまう。

グリスは高い粘度により、機構に長く留まって潤滑できる。反面、粘性抵抗が大きい。

スピードドライブはシール構造ではないため、粘度の低い潤滑油ではすぐに流れ出てしまう。
CRCなどを添加すると、グリスが流されてしまい短期間で潤滑不足による不具合が発生するだろうから注意が必要だ。

和田サイクルさんなどでシュルンプブランドのスピードドライブ用ルブが買えるそうなので、注油メンテナンスに不安な方は専用品をお薦めする。
但し、シュルンプ社では2年ほど前に潤滑油の粘度を上げているそうだ。ATS社製でも同じルブを使用しているかは定かでない。

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